愛知県内14市町情報不開示実態調査

〜交際費アンケート調査結果のレポート〜

1998.08.12

名古屋市民オンブズマン・同タイアップグループ




1,実態調査の目的

 名古屋市民オンブズマンとタイアップグループは,豊橋の情報公開をすすめる会と協力して,本年3月28日,愛知県内の14の市町を対象とした首長交際費の公開度ランキング調査を発表しました。この時の調査対象情報は,97年6月から8月までに支出された首長交際費の支出関係文書ですが,その結果,4市が交際費を原則開示,交際の相手方が個人でない場合に公開するものも含めると実に10の自治体が交際費の公開をしていることが判明しました。特に高浜市は交際費の支出の相手方に関する情報を完全に公開していました。
 交際費支出の相手方に関し,どの程度の情報を公開すべきか,については様々な議論があるでしょうが,交際費も公費です。そうすると,一体相手方を明らかにすることのできないような交際費の使途ということ自体を検証しなければならないと考えます。また,情報公開度ワースト1の愛知県と同じ文言の条例を持つ高浜市が交際費情報を全面開示していながら,他の自治体が情報を不公開としている理由はどこにあるのでしょうか。ちなみに,愛知県知事は不公開を争うオンブズマンとの訴訟で,懇談会の出席者の不公開理由として「当該職員に対する問い合わせが殺到したり」「尾行されたり,自宅の電話を盗聴されたりして,内密の協議を目的とする懇談会の相手方出席者やその懇談会の内容を探知される可能性がある」ことを,店名を不公開とする理由として「その店に盗聴機を設置したり,あるいは店内に客として入店して張り込むことにより,本件各懇談会開催後における内密を要する懇談会の懇談内容を盗聴される可能性があるだけでなく,その懇談会の相手方が割り出される」ことを,金融機関,支店名,口座番号を不公開とする理由として「ハッカーや他の金融機関の従業員等が当該預金を窃取したり」「当該金融機関の従業員が」「当該預金等を横領等」するおそれがあることを,それぞれ主張し,全国の市民オンブズマンから失笑と批判を浴びています。この愛知県知事の法廷での答弁などは,県民に対する不信を越えて,県民が真実を知ることに対する恐怖心が不公開の理由であることすら見てとれます。情報を不公開にする自治体の首長さんの姿勢はこれと似たものがあるのかもしれません。
 そこで私たちは,自治体の首長さんの姿勢を知ることが,情報公開をすすめる上でも重要と考えました。また,私たちの質問に対し,名古屋市をはじめとする幾つかの自治体から,「国の情報公開法を見て検討する」という回答も寄せられました。こういう回答は,自治体が市民ではなく,相変わらず国の側を向いている,ということを示すと言えるでしょうが,もう一つ気になるのは,国の法律のどこに注目しているのか,という点です。たとえば,国の法律が高額の手数料を徴収するものとなった場合には,自治体の情報公開条例についても高額の手数料を徴収する方向に動くのでしょうか。もしそのような検討をしているとすれば,早い段階で反対の世論を提起しなければなりません。
 私たちは以上のような問題意識から,14の市町の首長さん宛に,本年4月14日と6月1日に質問を実施しました。4月14日の第1回目の質問は,14市町に共通した,情報公開の現状に対する評価を中心としたもの,6月11日の第2回目の質問は,第1回目の回答を踏まえ,国の情報公開法との関係をどう考えるか,交際相手の情報を開示する場合に懸念される問題は何か,という事項を中心に幾つかの市町をグループ分けして,それぞれのグループに対して作成した質問書を交付する,という方法で行いました。ご多忙中,二度にわたって私たちの質問にお答えいただいた14市町の首長さんにお礼を申し上げるとともに,それぞれの結果について,報告ならびに市民オンブズマンとしてのコメントを付していきたいと思います。

2,調査結果とコメント

問1 「貴自治体の首長交際費の公開度の現状についてどう思っているか。」(第1回質問のNo.2)

(回答の後ろの( )内の記載は,設問の答えを選んだあとのそれぞれの市町の具体的な理由や対応の予定など)

 高浜市:現状のままでよい(相手方金融機関口座番号や印影以外はすべて公開しているので)
 東海市:現状でよいかどうかを検討したい(原則公開の立場から,個人情報保護との整合性,判例などの研究,他自治体の動向などを秘書担当・情報公開担当部局の職員に)
 西尾市:現状のままでよい(ほぼ全面公開だから)
 小牧市:現状のままでよい(特定の個人が識別される情報は,原則非公開となっており,現状は条例の趣旨を遵守している)
 知立市:現状のままでよい(ほぼ完全に公開しているため)
 豊川市:その他(個人のプライバシーの観念は,個人の生活・社会の移り変わりにより時代とともに変遷を余儀なくされるもので,公開基準も判例の動向をみて検討を加えていきたい)
 岩倉市:現状でよいかどうかを検討したい(相手方の個人名開示について内部で検討する)
 師勝町:その他(原則的には公開に努めてきたが,香典については今後公開したい。火事見舞いは引き続き公開しないこともある。病気見舞いは個人の事業活動などに影響を与えかねないから公開しないこともある。)
 東浦町:その他(判例などを参考にして公開するようにしている)
 稲沢市:現状のままでよい(個人のプライバシーに係わるもの以外は原則すべて公開しているため)
 豊橋市:その他(これまで交際の相手方はすべて非公開としてきたが,今年度から交際の相手方が団体である場合は公開することにした。)
 豊明市:現状でよいかどうかを検討したい(個人情報の開示とプライバシーとの関連について)
 半田市:現状でよいかどうかを検討したい(情報公開法が制定されればそれとの整合性,及び市長交際費のうち非公開とする情報の判定基準について)
 名古屋市:その他(8年12月12日の名古屋高裁の司法判断をふまえている,今後も国の動向・社会情勢の変化・司法判断をふまえて対応したい)

 原則公開の高浜,東海,西尾,知立を除く10自治体で,公開基準を検討したい,と回答した自治体が6自治体(豊川,岩倉,師勝,豊橋,豊明,半田)あったことは,一応の評価ができる。特に,師勝町は具体的に香典について公開する,との具体的な回答をしている点に注目したい。その一方,特に公開度が低い豊橋が,相手方が団体である場合にのみ公開する,としたことは不十分と言わなければならない。
 問題は名古屋市である。名古屋市は一応,国の動向,司法判断を踏まえて,と回答しているが,他の自治体に比べて,情報公開に対し,消極的であるとの印象は否めない。

問2 「公開する公文書のコピー代について,どのように考えるか」(第1回質問のNo.3)


 高浜市:現状のまま変更するつもりはない(現在20円)
 東海市:現状のまま変更するつもりはない(現在20円)
 西尾市:現状のまま変更するつもりはない(現在20円)
 小牧市:現状のまま変更するつもりはない(現在10円)
 知立市:現状のまま変更するつもりはない(現在30円)
 豊川市:現時点では変更する考えはない。今後情報公開法が制定され制度の運用が明らかになった場合には,その内容を慎重に検討し,かつ,他の地方公共団体の状況も勘案したうえで,費用の取り扱いにつき判断していきたい。(現在20円)
 岩倉市:現状のまま変更するつもりはない(現在10円)
 師勝町:現状のまま変更するつもりはない(現在20円)
 東浦町:安くする方向で検討したい(現在30円)
 稲沢市:インターネットホームページで行政情報の開示をしており,その場合は無料である。今後ページの内容を充実していく計画があることから,コピー代については検討していきたい(現在30円)
 豊橋市:現状のまま変更するつもりはない(現在20円)
 豊明市:安くする方向で検討したい(現在40円)
 半田市:安くする方向で検討したい(現在50円)
 名古屋市:国の情報公開法と本市条例との整合性を図るために,本市の情報公開制度の総合的な見直しをする中で,コピー代についても国の取り扱いを考慮して,検討していきたい(現在30円)

 高額なコピー代徴収を定めている東浦町,豊明市,半田市がコピー代を安くする方向で検討したい,と回答していることは評価できる。一日もはやくコピー代の低額化をすすめて戴きたい。稲沢市もコピー代の検討を回答しているが,インターネットと情報公開制度とは本質的に異なる情報公開手法のはずである。インターネット情報の充実と無関係に,コピー代は一刻も早く低額化して貰いたい。
 反対に,コピー代として30円を依然徴収する,としている名古屋市や知立市の姿勢は,情報公開に消極的と言わざるを得ない。
 さらに,名古屋市の回答の趣旨は理解不能でもある。なぜ,コピー代の問題で国との整合性を図る必要があるのか。国の情報公開制度において高額なコピー代を徴収するようになれば,名古屋市もコピー代の値上げをする,という趣旨であれば,大問題である。この問いに対して国の制度を引き合いにすること自体,ナンセンスであり,情報公開に対する消極的な姿勢ばかりが目に付く。

問3 国の情報公開法との関連について(第2回質問・高浜市をのぞく13市町に質問した)の質問のうち

(1) 「仮にコピー代の他に何らかの手数料を徴収する,という情報公開法が成立した場合に,それに合わせるか」

 東海市:政令の内容が未定で設問に解答できないが,本市の条例の手数料に関する規定については,法令の内容・他市の状況等参考にして,法の施行までの間に検討の予定
 西尾市:未検討
 小牧市:合わせない
 知立市:合わせない
 豊川市:確定した情報公開の法制度などに基づいて判断したい
 岩倉市:合わせない
 師勝町:合わせる
 東浦町:内容を検討して決定したい
 稲沢市:合わせない
 豊橋市:未定(法の趣旨を確認)
 豊明市:回答なし
 半田市:合わせる
 名古屋市:検討していない

 全国の市民オンブズマンが問題ありとして指摘する,コピー代の他に何らかの手数料を徴収するような政府原案が法として成立した場合の対応を聞いたものである。国に合わせる,と答えたのが師勝町と半田市,検討の余地がある,と答えた自治体は東海市,豊川市,東浦町であった。しかし,なぜ,手数料について,国の制度と合わせなければならないのであろうか。私たちがかねがね主張しているように,情報公開は民主主義のインフラストラクチュアである。情報公開の重要性や意味を理解しているのであれば,少なくとも国の制度にあわせて手数料を徴収する,ということにはならないのではないか。「合わせる」と回答した師勝町と半田市については,今一度情報公開の意味について検討していただきたい。

(2) 「政府原案5条では,個人名の公開に関し,公務員の職務の遂行にかかる情報であるときは職名及び職務遂行の内容にかかる部分は公開するとしているが,仮にかかる法が成立した場合にはそれに合わせるか」


 東海市:単純に政府原案に合わせる合わせないの選択でなく,法の制定後施行までの間に,法の内容も踏まえ,本市の条例について検討予定。
 西尾市:未検討
 小牧市:合わせる
 知立市:合わせる
 豊川市:確定した情報公開の法制度に基づいて判断したい
 岩倉市:合わせる
 師勝町:合わせる
 東浦町:合わせる
 稲沢市:合わせる
 豊橋市:合わせる
 豊明市:回答無し
 半田市:合わせない
 名古屋市:検討していない

 前問と同様,市民オンブズマンらから問題が多いとされている原案の条項をぶつけてみた。驚くことに,7市町がこれに会わせる,と回答してきた。これらの自治体の内,豊橋市などは公務員の氏名を現状において公開していながらも,法の趣旨に合わせるという回答をしている点が極めて気になるところである。法が現状の運用よりも後退した内容となった場合には,運用を後退させる,という回答のように思えなくもない。これについては,次問へのコメントの中で併せて論じたい。

(3) 「仮に公務員氏名は全部公開するという情報公開法が成立した場合,懇談会などの相手方氏名も公開するか」


 東海市:公開する
 西尾市:未検討
 小牧市:市独自の判断をする
 知立市:公開する
 豊川市:回答無し
 岩倉市:公開する
 師勝町:公開する(公務員の場合)
 東浦町:公開する
 稲沢市:公開する
 豊橋市:公務員の公務に関する情報は原則公開として扱っている
 豊明市:回答なし
 半田市:市独自の判断をする
 名古屋市:検討していない

 前問(2)とは全く逆の質問をしてみた。前問の回答と併せてみると,前問で,法に合わせる,と答えた7市町の内,ここでは小牧市が市独自の判断をする,として,公務に従事した公務員の氏名公開に消極的な姿勢を示した。小牧市の首長さんはよほど市民の目がいやなのであろうか。また,前問で国の制度と合わせる,と回答した残りの知立市,岩倉市,師勝町,東浦町,稲沢市,豊橋市は,ここでは公開する(法にあわせる)という回答をしてきた。そうすると,結局,今後の運用は情報公開法次第,ということになりはしないか。公開の程度について,なぜ自治体独自の判断ができないか,住民により身近な市町であるだけに,法以上に踏み込んだ開示をすべきであろうし,法以上にすすんだ公開をすることが当然ではないか。しかも,なぜ公務遂行者の公務員氏名を公開することを躊躇するのであろうか。公務と公務遂行者の氏名公開の重要性について,前問への回答で,国に合わせる,と答えたこれら7市町の首長さんには再検討して貰いたい。

問4 「 交際費の相手名の非公開について,どのような理由で非公開にしているのか

(第2回質問,質問対象は相手個人名を原則非公開にしている7市町を対象として選択肢をもうけ,行った)

 小牧市:個人のプライバシーの保護のもとで,個々に判断している。
 東浦町:香典の金額の多寡でもめるのは困る
 稲沢市:市の条例に基づいて公開非公開を判断しているが,交際費のみ全面公開にすると,制度全体の公開非公開の区分がなくなり,混乱するおそれがあるため
 豊橋市:交際費における個人名は,懸念を想定して非公開としているのではなく,個人のプライバシーに関する情報であるため非公開にしている。個人名の公開により,当該交際の相手及び交際の相手とならなかった者の中から,市に不快・不信の念を抱く者が出ないとは言いきれない。このことは市に対する信頼・協力関係を崩すものであり,交際の目的に反する。
 豊明市:公的交際として対応しても,私人である相手方にとっては,私生活上の事柄であり,相手方も将来の公開を予定してまで香典を受領しているわけではない。私生活に関する情報は個人情報であると解釈しなければ正当性にかけるのではないか
 半田市:個人名を公表して,その個人から訴えを起こされると困る。相手方にとって知られたくない個人の情報を行政が勝手に公開すれば,交際費の効用が滅失される。
 名古屋市:市長との交際は私人である相手方にとっては私的な出来事であり,交際事務に関する情報を全面的に公開することは,交際の相手方のプライバシーを侵害するだけでなく,相手方の信頼を失うこととなり,儀礼としての意味を損ない,交際事務の目的を達成できなくなる恐れがある。

 交際費について相手方個人名を非公開とする理由について,選択肢を設定して質問した。私たちが用意した選択肢は,香典の多寡でもめるのはこまる,死亡したことがわかると困る,首長と交際していることがわかると公開された個人が困る,香典の支出基準がわかると市長への支援が減る,私的なつきあいがばれると困る,個人名を公開して,その個人から訴訟を提起されると困る,などの項目にその他,を加えたものであった。これら7市町の内,選択肢から選択したのは,東浦町と半田市(半田市はその他の項目も理由とした)で,それ以外の市はいずれの選択肢にも当てはまらない,として回答してきた。
 しかし残念ながら,私たちとしては交際費の支出について交際の相手方の非公開として説得力のある回答はなかった。選択肢から選択した東浦町と半田市の回答は分かりやすいが,本当に市民がこんな短絡的な行動をとると考えているのだろうか。市民に対する不信感があるように思えてならない。仮にそういう不信感をもって首長の席にあるのであれば,その不信感を払拭して貰いたいというほかない。稲沢市は「交際費のみを公開すると,制度全体の公開,非公開の区分がなくなる」と回答したが,私たちは交際費のみを公開して欲しい,と求めているのではなく,まさしく制度全体の公開を見直しを求めているのであって,論理が逆である。
 全体の回答中で目立つのは,「プライバシーだから」という理由と「交際の目的を達成できなくなる」というものであった。しかし,これらの回答をみると,税金の使途を市民に公開する意義とプライバシー保護を十分に秤にかけて検討している,とも言いがたい。この点については,「まとめ」で述べる。

問5 「政治セミナーなどへの交際費の支出をどう考えるか。」

 (第2回質問のうち,政党セミナーなどの会費を交際費で支出している4市町にたいして)

 西尾市:会合を通じて各界のトップと交流することは,行政上のプラスと考え交際費で支出してきたが,批判的な意見もあるので平成10年度から交際費からの支出は止める。
 小牧市:セミナーの内容が,現在の政治状況・政治課題などの情報収集となるものであり,行政運営上有益であると判断すれば妥当と考える。
 稲沢市:市政発展の一助になればよいと考えていたが,いろいろな論議もあり,支出はすでに取りやめている。
 豊明市:会費イコールパーテイ券の購入費とは考えていない。これらの会合では,中央からの講師等により,国の政策動向や時の問題をとらえることができ,しかも情報交換の場としても有益であり,そのための会費と考えていた。

 これについては西尾市,稲沢市では支出を取りやめたと回答している。また,豊明市も過去形で答えたところからみると,支出を取りやめる方向であることが窺える。しかし,そうであるなら,しっかりそう回答して戴きたい。「ぬえ的」な回答は,市民の首長への信頼を喪失させるだけだ。また,取りやめる,という首長さんも,リップサービスで終わることのないよう,しっかり実行していただきたい。

問6 「愛知県衛生部長・刈谷税務署・名古屋法務局等の国家公務員出向者と思われる人に,交際費から餞別を支出しているが,どのような考えで行っているのか。」

(全面公開ともいえる高浜市は,その情報公開にたいする姿勢としては賞賛に値するものだが,公開された内容をみると,不審な餞別の支出をしているので,この点だけを第2回質問で訊ねた。)


 高浜市:当市の行政を推進するうえで,より市民の福祉の向上を願い,相談・指導などを受けた方が当地を去られるにあたり,哀切の念を含む必要な儀礼であり,社会通念上許される範囲のものと考える。

 交際費の公開については全国最高レベルの高浜市であるが,その使途としては疑問が多いため,質問した。首長さんの回答は,社会通念上,許される範囲である,というものであった。しかし,税金で哀切の念を含む儀礼として現金を渡す,という発想には賛成できない。あるいは,国や県と市との関係において現金や贈り物を渡すことが業界の?常識,というのであれば,官官接待と同様,その常識こそが問題ではないだろうか。高浜市において今後もこのような政策を遂行されるかどうかについては,私たちも注目していきたいが,全国最高レベルの交際費情報の公開に踏み切ったことから,先進的な意識をもつと期待できる首長さんだけに,国,県と市との古くさい「社会通念」をも変えていく姿勢を期待したい。

3,まとめ

(1) 「プライバシー」と情報公開の意義は十分に検討されているか

《1》 プライバシーを理由とする不公開の意味
 今回の調査のおおきな目的は,情報を不公開とする自治体の論理を知る,ということにありました。交際相手の個人を不公開とする回答の多くが,プライバシーを理由とするものでした。そして私たちはこの質問について,死亡したことがわかると困る,首長と交際していることがわかると公開された個人が困る,といった,プライバシーによって保護される側の利益,といったものを想定し,質問中に選択肢として用意しましたが,これら公開される個人の側の利益について選択した回答も,また,公開されることによって迷惑を被る個人の側に立った回答も一つもありませんでした。不公開によって保護すべきものとしてプライバシーを挙げながら,保護される側の個人の利益保護の立場に立った回答がないのは,結局,肝心のプライバシーの中身が十分に検討されていない,ということになるのではないでしょうか。
 その一方,回答で目立ったのは,「交際の事実が明らかになると当該交際の相手及び交際の相手とならなかった者の中から,市に不快・不信の念を抱くことにより,市との信頼・協力関係を崩す」(豊橋市)というものや「相手方にとって知られたくない個人の情報を行政が勝手に公開すれば,交際費の効用が滅失される」(半田市),「相手方の信頼を失うこととなり,儀礼としての意味を損ない,交際事務の目的を達成できなくなる恐れがある」(名古屋市)などの回答に代表される,いわば,交際費効用滅失論,というようなものです。あえて言えば,交際費支出は秘密にしなければ,相手方の信頼を失うし,貰った相手方が市に不快感を得ることになる,ということなのです。
《2》 将来にわたって交際費の相手方情報を公開することは難しくない
 議論を整理してみましょう。過去の支出を突然公開する,ということになれば,公開された個人が見舞金を受領していた場合などに,不快に思うことがあるかもしれません。まさしく裁判で公開が問題となるのは,この局面です。しかし反対に,交際の相手方に対し,今後,公費支出はすべて公開しますよ,ということを明らかにしておけば,予想外の公開によって相手方が不快になることもないでしょうし,公開を望まない場合には公費を受け取らなければ良いことになるはずです。したがって,これまでは交際相手の情報は非公開にしてきたが,これからは公開する,という政策転換は可能なはずです。ところが,小牧,稲沢,豊橋,名古屋の各首長さんは,少なくとも回答では,今後の個人名の公開に対して消極的です。また,豊川市,東浦町,名古屋市では判例を引き合いに出してもいます。しかし,判例で問題となっているのは過去の支出の公開をどうするか,という問であって,将来の支出の公開にどう取り組むかとは,利害状況が明らかに違います。私たちは首長さんが判例を隠れ(隠し?)蓑にしているように思えてなりません。
《3》 理解できない「交際費効用論」
 交際費の相手方を不公開とする理由としてもう一つ目立ったのは,秘密にしなければ相手方との交際事務が害される,という回答です。この回答の趣旨は,相手方が公費あるいは記念品などを受け取らなくなると,交際事務が成り立たない,ということまで考慮した表現かもしれませんが,果たして自治体の交際事務とは,公費や公費で購入した記念品等を渡さないとうまく機能しないものなのでしょうか。たしかに,首長さん自身が葬式に参加してもらったり,病気見舞いに来てくれる,などしてくれた場合には,首長さんに対する信頼は増すとは言えるでしょう。しかし,税金を財源とした香典や見舞金を貰って,「ああ,いい市長さんだ。市政に協力しよう」と思う人が多数であるとは思えないのですが。むしろ香典や見舞いなどは,「ポケットマネーで香典を出してくれた」と思えばこそ,ありがたいものではないでしょうか。
 そしてそもそもわからないのは,「交際事務」とは何か,ということです。高浜市の首長さんは餞別なども必要な事項と言います。しかし,果たして餞別,香典や見舞金を税金で賄うことが,政策を実施する上で本当に必要なことなのでしょうか。公費による香典や見舞金の受領辞退者が出ると,市の行政が滞ってしまうものなのでしょうか。私たちから見ると,交際費として支出されてきたものの多くは,官官接待と同様,ホントは不要なのに,横並び意識で惰性で支出してきたものにすぎない,というように思えるのですが。この機会に交際費とは本当に行政上,必要なことなのか,について検討していただきたいと思います。
《4》 交際費の公開は行政手法への姿勢の違いではないか
 結局,交際費の支出先を公開するか否か,という問題は,交際事務に対する首長さんの認識の違いではないか,少し乱暴ですが,首長さんの行政政策の基本を贈答におくか,あるいは説得と議論の過程におくか,ということではないか,と思います。
 そして私たちはすくなくとも,現状では各自治体の首長さんは,実際にはプライバシーについてきちんと考慮しているようには思えません。
 首長さんには再度,プライバシー保護の意味と公費を用いた「交際事務」とは何か,再検討していただきたい。

(2) 置き忘れられた地方自治の本旨

 国の情報公開法に関連した質問に対する回答は,一体,地方自治の本旨はどこに行ってしまったか,との疑問を持たせるものでした。コメントにも付しましたが,自治体は国よりもはるかに市民に身近な機関です。こと情報公開については,国よりもすすんだ公開がされて当然のはずです。公開基準について,現在の運用よりも後退した運用が国の法律で行われた場合に,これに合わせる,と答えた自治体の首長さんは,情報公開や地方自治の本旨といった民主主義の制度に後ろ向きと言わざるを得ません。

(3) 名古屋市について一言

 今回調査した14市町中,名古屋市の情報公開に対する姿勢は,最も消極的であるといわなければなりません。将来の公開については,司法判断を踏まえる,として,何等の公開案も提案せず,コピー代については国の情報公開法を意識する,と答える。情報公開については名古屋市には主体性がみられず,後ろ向きといわざるを得ません。

(4) まとめ

 今回調査した名古屋市を除く13自治体は,情報公開度について,愛知県や名古屋市よりも明らかにすすんだ運用をしていることは評価できます。しかし,これらの自治体がおしなべて情報公開制度に対する十分な理解のもとに,条例の運用をしているか,といえば,ほとんどの自治体の首長さんには,いまだに合格点をつけることはできません。ほとんどの自治体は市民に対する不信が払拭できないように思います。
 ただ,その中でも,私たちの質問への回答で,コピー代を安くすると答えた東浦町,豊明市,半田市の首長さんには,一刻も早くその政策を実行していただきたい。公開基準については6自治体(豊川,岩倉,師勝,豊橋,豊明,半田)の首長さんが見直しを回答しています。私たちはこれも早急に見直しに着手していただくことを求めます。
 私たちは,愛知県内の市町についての第二回目のランキング調査結果を予定しています。その調査を開始する今年の末ころには,愛知県内の市町の情報公開への取り組みがどのように変化しているか,注目したいと思います。
以 上



各市町の交際費支出項目の公開非公開の別

市町名 相手方の氏名を公開している交際費支出項目 相手方の氏名を非公開にしている交際費支出項目
高浜市 香典・供花・お祝い・病気見舞い・餞別(以上個人),祝儀・会費(以上非個人) なし
東海市 香典・記念品(以上個人),会費・激励金・協賛金・広告費(以上非個人) 入院見舞い(個人)
西尾市 香典(個人),懇親会・歓迎会・お祝い(総会・退任・起工式など)・政治セミナー(以上非個人) 見舞い(個人)
小牧市 香典(個人)・祝儀(退会・懇親会)(以上非個人) お祝い会費(個人)・祝儀(個人非個人不明)・会費(非個人・たぶん政治セミナー)
知立市 香典・受賞会・就任式会費(以上個人),懇親会・総会会費・大会祝儀(以上非個人) 見舞い(個人)
豊川市 総会・懇親会・まつり祝儀等・起工式(以上非個人) 香典(個人)
岩倉市 懇談会・選手激励・平和大行進賛同金(以上非個人) 香典・火事見舞い(以上個人)
師勝町 祝儀・寸志(以上非個人) 香典・見舞い(以上個人)
東浦町 お祝い(設立総会・竣工式など)寸志(研究会・祭りなど)・激励金(大会出場など)(以上非個人) 香典・見舞い・お祝い(以上個人)
稲沢市 会費・手みやげ・募金激励金(以上非個人) 香典・見舞い(以上個人)
豊橋市 なし 会費・土産・弔意(以上個人か非個人かわからない)
豊明市 懇親会費・総会会費・歓迎会費(以上非個人) 受賞祝賀会・病気見舞い・香典・受賞祝賀会費(以上個人),パーティー券・県連セミナー・就任祝う会会費(以上非個人)
半田市 懇談会負担金(首長協議会等)消防大会慰労会差し入れ(以上非個人) 香典・供花・病気見舞い・送別会(以上個人),差し入れ金(反省会・懇談会など)(以上非個人)
名古屋市 なし 接遇費・賛助金・弔意費・見舞金・祝い金(相手名のみならず具体的内容一切非公開)



戻る