問題解決は市民と新聞の連携プレーで

名古屋市民オンブズマンタイアップグループ事務局広報担当：佐々木伸尚

情報の共有化目指し，ＨＰ開設

　市民オンブズマングループは１９９５年夏の官官接待追及を皮切りに，カラ出張・談合問題の一斉調査などの行政監視活動に情報公開制度を積極的に利用してきた。名古屋の市民オンブズマンもタイアップグループが中心になり，多くの行政文書の公開請求を行い，その結果を分析して，住民訴訟や公開質問状などの活動をしてきた。行政の腐敗を防止し，行政の目を市民に向けさせるために，情報の公開が重要な役割を果たすことを実感したのである。
　もちろん，行政は情報の開示には消極的である。情報の開示によって税金の不正支出が明るみにでることを恐れているのだ。こういう行政の姿勢を変えるものは，一つには裁判所の判決であろう。しかしもっと重要なことは，情報の非公開の実情も含めて，いま行政がしていることを事実として私たち市民が知ることである。役所のなかで行われていることを知って怒らない人はいない。事実を知ることは，行政に対して意見を持つことにも結び付く。秋田県で起った知事の辞任劇は，情報公開によって明るみに出た事実を，情報公開に関わらなかった県民も共有化できたことが原動力になっているのではないだろうか。市民団体の積極的な情報公開請求と報道機関の地道な報道によって，事実の共有化ができ，民主主義のお手本のような結果が生まれたのだと思う。
　秋田県のような行政の実態は程度の差こそあれ全国の自治体に共通するのではないかと思われる。私たちの住む愛知県や名古屋市など，情報の公開度の大変低い自治体の実態は，秋田よりもひどいのではないだろうか。にもかかわらず，私たちの県では，県民の声はあがってこない。県民全体にとって，役所の情報はまだまだ遠いと思える。私たちも多くの情報を開示させて，県庁のカラ出張疑惑を指摘した。報道機関もその都度私たちの発表を報道してくれた。しかし，疑惑だけでは，それをオンブズマンが指摘したということ以上の記事は書きようがないという。「どういう情報が公開され，どこに疑惑があるのか」という中身ではなく，疑惑の指摘をしたという行動しかニュースになり得ないというのだ。私たちが情報の共有化を目指して行った活動が，情報の共有化には結びつかず，市民オンブズマンにお任せというムードに結びついてしまうというジレンマを感じ始めたのである。これが，私たちがインターネット上にホームページ（ＨＰ）を開設した理由であった。�つまり私たちはＨＰを開設することによって，情報公開で知り得た情報を，私たちの運動に参加できない多くの人たちと共有することと，市民オンブズマンの活動を知ってもらうことにより，この活動が特別なものではなく，じつは誰にでもできる活動であることを認識してもらうことの２点を目指したのである。
　名古屋市民オンブズマンとそのタイアップグループが，９６年７月にＨＰを開設して以来，今年の４月６日までに，アクセスされた件数は６４７５件，そのうち，メールを送ってきたのは９２件であった。これらの中には他府県からだけでなく，海外からのものもあった。
　内容別に見ると，最も多いのが，「がんばってください」という支持表明，ないしは応援のメッセージで２５件，うち無記名が４件で，そのうち２件は公務員からのものであった。問合せと他地方のオンブズマンの仲間からのメールが，それぞれ２１件あった。告発的な内容のものがその次に多く，１５件あったが，６件は無記名で，そのうち３件は内部告発だと思われる。意見も９件あり大いに参考になった。反論的なものは意外に少なく，１件だけであった。新聞・テレビなどで，大きな報道があると，アクセス数が急に増加する傾向にある。特に，「全国情報公開度ランキング」を発表したときは，問合せが急増した。
　わずか９ヶ月余の経験ではあるが，そこから言えることは，次の点であろう。インターネットは，新聞・テレビなどのマスコミとは異なり，あくまで１対１の伝達が基本である。その特徴は，関心のあるものがアクセスするという能動性を発揮して始めて成立することと，得た情報に関して，感想なり意見をメールを送るという行為を通じて，市民が情報発信者の活動に参加することができることにある。その点をさらに発展させるためには，フォーラムを設置する必要があるが，現段階では，まだそこまではできていない。
　また，情報を得る側は，誰かの解釈が入っている可能性のある解説ではなく，ナマの資料を自分の目で確かめたいという傾向が強いように思われる。そのためには，できるだけ早くナマの情報を載せなければならないが，作業の時間と人材の点でかなり困難があり，全ての情報を掲載することはできない。

期待できぬサイバー空間での世論形成

　現段階で，ホームページを開設しているのは，全国４２都道府県に存在する市民オンブズマン組織のうち，秋田・群馬・山梨・名古屋・大阪・広島・福岡の７つだけであり，互いにリンクしているが，全国の状況を知るには不十分である。しかし，最初に名古屋が開設して以来半年あまりでこの数になったことを考えれば，今後もますます増加し，その影響力も増大していくと期待できる。
　現在のところ，ＨＰの役割はミニコミとして地域に密着した情報を提供するという点が主力である。広島の場合，広島オンブズマンのＨＰの中に，因島支部もぺージを設けているため，地域の独自の活動を知らせることができている。名古屋市民オンブズマンとそのタイアップグループの場合は，月１回の例会で報告し，会員向けに，月２回のＢ４版のニュースを発行しているが，かなり活発なオンブズマンの活動をカバーしきれていないのが現状である。一つの市民運動として，全体をまとめていくためにはミニコミ機関紙の発行は欠かせないが，紙の情報の弱点は，会の内部にだけしか伝達できないことと，得た情報の量が多すぎて，全てを全会員には知らせられないことである。それを補う方策としても，ＨＰを使っているのである。
　インターネットがなかった段階では，会員外に情報を知らせる方法はなかったし，会員外に働きかける必要がある新たな会員の募集や，カンパを求める場合には，マスコミの協力を得るほか，自力では，口コミしか方法がなかった。
　一方，ＨＰの開設によって，報道機関が記事にしない情報，あるいはナマの情報に近い内容の情報（具体的にはカラ出張疑惑の具体的内容や，知事や候補者の公開質問に対する回答全文等）を発信することにより，情報の共有化が期待できる。マスコミ報道の一過性や，重要な情報であっても紙上では結論しか報道されないことに対する市民の側からの情報提供とも言え，その重要性はますます増すものと思われる。例えば，全国市民オンブズマン連絡会議が発表した情報公開度ランキングの場合，単にどこの自治体が何点取ったかという観点よりも，どの点が遅れているか，我が国の情報公開の状況はどうで，どこに問題があるかという個々の事実にこそ重要性がある。しかし，採点内容を新聞が報道することは期待できないし，現実に報道した新聞はなかった。となると，内容に関わる詳細な採点表を公表する場はイ�ンターネットしかないことになる。現にランキングを発表した日，採点表に関する問合わせは１００件近い数に上った。マスコミが報道できない情報を発信することの重要性はますます高まると言えよう。
　インターネットを通じてのミニコミの役割を強調するあまり，マスコミの限界だけを述べすぎたようだ。情報の共有化を考えるとき，まず第１の役割は，マスコミが担うことになる。それも，新聞の果たす役割が大きい。即時性の点では優れているが，問題の本質をえぐり，その重大性を分らせる上では，テレビは新聞には勝てないようだ。その記事が紙面に占める大きさ，本質を一目で分らせる見出しとその字の大きさなど，本文を読む前に，直感的にその記事のウエイトを知らせることができるのは，新聞の長所であろう。記事を読むことによって，一般市民は，事柄の本質・重大性を知り，さらに詳しく知ろうとして，インターネットに向かうことになる。
　市民オンブズマンに限らず，様々な市民運動のＨＰが開設され，自らの主張を展開しており，フォーラムを設けているところでは，議論を戦わせることも可能になっている。メールを送ると言う方法で意見を簡単に伝えることができるという点で，情報の送り手と受け手の垣根が低くなることは重要であるにしても，アクセスするかどうかが，あくまでも相手次第であることや，インターネットを使える人が，まだまだ少数派であるので限界があることから，インターネットでの情報発信で世論形成が期待できるかと問われれば，残念ながら現状では否と言わざるを得ない。これはインターネットの１対１対応（とその変形）によるコミュニケイションのフォーラムとしての閉鎖性・限界と，政治的見解はインターネット外に表現されない限り市民権を得ないという民主主義システムの問題や，コンピューターの使用者が限定されているという現状から見て，やむを得ないところであろう。
　以上のようにインターネットは様々な可能性を持つ。だからと言って，近い将来にサイバー空間が情報公開の中心になるとは考えにくい。第一に，ナマの情報そのものはインターネット上に展開できない。ＨＰの情報は私たちのフィルターを通した情報なのだ。

広報紙と大差ない行政ＨＰ

　結局，市民オンブズマンが行っている行政の不正追及活動のうち，カラ出張・カラ接待・カラ雇用の３大カラ操作については，出席者や出張者・目的・場所などが全面公開されるようになれば，大部分なくなると思われる。また，官官接待についても，不必要なものはなくなるだろう。しかし，それ以外の多くのものは住民監査請求・住民訴訟という形で，法廷を中心に戦うことになる。この場合のこちら側の武器は，公開された情報から得た疑惑の根拠がまず第１で，それを法廷でどれだけ明かにしていくかが活動の中心となる。それと同時に，その根拠をできるだけ分りやすく一般市民に伝え，世論を味方に付けることが次の問題となる。その場合にも，テレビがまず事柄のアウトラインを伝え，より詳しく新聞が報道し，インターネットがそれを補うことになる。つまり，インターネットを情報の中心にするのではなく，サイバー空間はあくまでも現実の世界の補完物としての意味を持つものではないかと思うのである。
　官官接待やカラ出張の問題にしても，今年の情報公開度ランキングにしても，マスコミが採りあげて，社会問題化したからこそ，一定の成果に繋がったものと言える。また，私たち名古屋市民オンブズマンが，情報公開請求にかかる費用があまりに多く，一般の市民の援助を得ようとカンパを呼びかけたとき，わずか３ヶ月で３００万円のカンパが寄せられてメンバーは感激したが，これも，マスコミの報道とホームページを見て寄せられたものが大半であった。つまり，官庁の不正追及などの社会全体に関わる問題の解決は，それを問題とする市民グループと，マスコミの連携プレーが，社会全体の世論に支えられたときに始めて実現するという形は，基本的には今後も続くと考えられる。インターネットは，マスコミの報道では充分に伝えきれない部分を，取材の客体が自ら情報を発信することで補完するものとして機能することになる。今後，インターネットがますます発展しても，マスコミと市民グループの協力関係は必要であることは間違いない。
　自治体や省庁が，ホームページを開設し，情報を公開するという動きがでてきている。これはこれで，結構なことかもしれない。しかし，問題はその情報の内容である。試みに，私が住む愛知県のＨＰを開いてみると，かなり多方面にわたって，情報が提供されているものの，現在問題になっている万博や中部国際空港�については，項目すらない。環境アセスメントの結果についても，掲載されていない。賛成・反対の対立している問題こそ，きっちり知らせて，理解を求めるべきだと思うのだが，現状では，そうはなっていず，我々が知りたい情報はほとんど掲載されていないようだ。名古屋市の場合もほぼ同様で，市が全戸配布している広報紙の内容と大差はない。
　しかし，一歩進めて考えてみると，全ての公文書をホームページに掲載することなど，時間的にもスペースの面でも不可能であるので，当然，何を掲載し，何を掲載しないかと取捨選択することになる。このことは，我々のようなミニコミの場合でも当てはまるし，マスコミが何を報道するか，しないかの場合でも当てはまる。

請求情報得られるシステムの確立を

　我々が，官官接待やカラ出張・カラ雇用などを問題にしたとき，公開請求した公文書は，個々の懇談会の支出伺い・請求書・支出命令書であり，出張の場合は，旅行命令・旅費請求書・復命書などであった。これらの書類は膨大なもので，それをいちいちチェックし，疑惑の点を明かにしていったのであるが，これらの公文書の全てをホームページに掲載するなど，考えられない。どうしても，取捨選択することになるだろう。取捨選択する以上，一定の意図が働くのは当然である。自治体の場合，何が住民にとって大切かという立場に立って選択してもらわねばならないが，そうではなくて，何を伝えたいかが中心となってくる恐れがある。情報を選択することによって，世論を操作することもあり得ると思わねばならないだろう。とすれば，与えられる情報だけで満足するのではなく，必要な情報を請求することが必要になる。そのためには，請求すれば必要な情報が得られるというシステムが確立することが最重要である。
　オンブズマンの活動が始まって７年，情報公開条例を利用して，監査請求を行い，住民訴訟に持ち込む手法も熟達の度を増し，最近では裁判でもいくつか勝訴をかち取るところまで力をつけてきた。これはもちろん，オンブズマンだけの努力によるものではなく，新聞などの報道から問題点をキャッチしたり，独自の調査で問題化したものを，マスコミの報道によって社会問題化でき，ひいては世論の支持を得て，ここまで到達したものである。一昨年度は官官接待，昨年度はカラ出張をメインテーマにして，全国的に見れば，一定の成果を挙げてきた。それと平行して，全国各地で公文書の部分非公開処分取消請求訴訟が行われ，公務執行中の公務員の氏名はプライバシ－にあたらないとの判決が既にいくつか出ている。懇談会の出席者や目的・場所などは公開するというのが，大きな流れになってきた。この実績が現在検討中の情報公開法の規定の範囲を広げる力になるよう期待したい。
　これらの流れのなかで私たちが思うのは，行政の持っている情報がまず開示されることの重要性である。行政のなかには，情報公開条例を制定する動きもしないのにインターネットには情報を流すところもある。これは明かに本末転倒である。じつは，一見華やかなサイバー空間やインターネットというメディアの問題だけが独り歩きし，本来的に重要な情報の公開が制限さ�れる結果になってはいないかと危惧している。しかしだからこそ，サイバー空間においても，新聞には市民グループとの連携を採りながら，より一層の監視を期待するものである。

※日本新聞協会発行「新聞研究」９７年５月号から転載（承認済）同協会のご厚意に感謝します

問題解決は市民と新聞の連携プレーで

名古屋市民オンブズマンタイアップグループ事務局広報担当：佐々木伸尚

情報の共有化目指し，ＨＰ開設

期待できぬサイバー空間での世論形成

広報紙と大差ない行政ＨＰ

請求情報得られるシステムの確立を

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