人権条例特集

名古屋市は人権条例制定を目指しています。

2025年4月以降
  • 25/8/9(土) レポート:勧告→命令→刑事告発 で止める ー 愛知県弁護士会が示した人種差別撤廃条例の骨格と課題
  • 25/7/14(月) 【現場レポート】「子ども権利擁護」を起点に──名古屋市「人権条例」第2回検討会を傍聴して
  • 25/4/14(月) 第1回名古屋市人権に関する条例(仮称)検討会 座長「作る以上は実行性のあるものであるべき」
    25/8/9(土) レポート:勧告→命令→刑事告発 で止める ー 愛知県弁護士会が示した人種差別撤廃条例の骨格と課題

    放火は“前触れなく”やって来る。
    被害者の言葉が示すのは、ヘイトが「言論」ではなく暴力だという現実。
    愛知県弁護士会は、勧告→命令→刑事告発へと段階的に止める3段階モデルを提案しました。

    次の被害者は“あなたの隣人かもしれない”。だから制度で止める。
    いま名古屋が作る条例に「3段階措置+ネット/施設対策」を実装し、再犯時に実効性を担保すべきです。


    本稿は、その骨格と課題を要約します。

    2025年8月9日、愛知県弁護士会が主催となりシンポジウム「つくろう!人種差別撤廃条例 
    〜愛知におけるヘイトスピーチ/ヘイトクライムの実情を踏まえて〜」が開かれました。
    https://www.aiben.jp/about/katsudou/jinken/news/2025/07/202589.html

    現在、名古屋市で包括的な人権条例制定が議論されています。
    https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000185008.html
    名古屋の人権条例には、再犯時に実効性を担保する“3段階措置(勧告→命令→刑事告発)とオンライン対策・施設利用制限を入れるべきです。
    その大変参考になる充実したシンポジウムでした。

    1.なぜ今か(事件・被害の声/名古屋の検討状況)
    ■川合会長「当然、人権は外国人にも及ぶ。象徴がヘイトスピーチ/ヘイトクライムだ」
    はじめに、川合伸子・愛知県弁護士会会長があいさつしました。
    戦争の結果、内外に甚大な人権侵害を及ぼした反省のもと、日本国憲法を制定した。
    「国民」とあるが、当然、国籍の有無にかかわらず、権利の性質上適用可能な人権規定は全ての人に及ぶ。
    守られていない人権課題の一つが外国人の方々の人権問題、その象徴がヘイトスピーチ/ヘイトクライムだ。
    本日の企画では、人種等を理由とする差別に対して国の法律はどう対応してきたか、地方公共団体はどう条例で対応すべきかを検討する。
    2.提案の中身 ?? 3段階+ネット/施設対策がコア、川崎市は先行例
    ■愛知県弁護士会 人種差別撤廃条例案「3回違反があれば公表+刑事告発を」
    続いて、郭勇祐弁護士による基調報告「愛知県内の地方公共団体において人種差別撤廃条例の制定を求める意見書について」がなされました。
    2016年に「ヘイトスピーチ解消法」ができたが、明確にはヘイトスピーチを禁止していない。
    また、地方公共団体に対しても努力義務を課すのみにとどまっている。
    https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html
    @ ヘイトは“言論”ではなく暴力である
    愛知県内では、複数のヘイトスピーチだけでなく、
    1997年に日系ブラジル人の少年が死亡した傷害致死事件、
    2002年に朝鮮学校生徒に対する暴言、嫌がらせ等、
    2017年、朝鮮系金融機関の店舗に火のついた布と灯油容器を投げ込んだ事件、
    2021年に民団愛知県本部及び名古屋韓国学校に火をつけられた事件(後述)などのヘイトクライムが起きている。
    「ヘイト暴力のピラミッド」と説明されるが、ヘイトスピーチがヘイトクライム、ジェノサイドを招く。
    愛知県内には、愛知県、津島市、大府市に条例は存在するが、より実効的な取り組みが必要だ。
    日弁連では2023年にヘイトスピーチ禁止法の制定を求める意見書を出し、愛知県弁護士会でも2025年2月に県内自治体に人種差別撤廃条例の制定を求める意見書を出した。
    ・2023年4月14日 日本弁護士連合会
     人種等を理由とする差別的言動を禁止する法律の制定を求める意見書
     https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2023/230414.html
    ・2025年2月18日 愛知県弁護士会 
     愛知県内の地方公共団体において人種差別撤廃条例の制定を求める意見書
     https://www.aiben.jp/opinion-statement/news/2025/03/post-122.html
     「愛知県内の地方公共団体において人種差別撤廃条例の制定を求める意見書」サマリー
     https://www.aiben.jp/opinion-statement/news/2025/03/post-128.html
    A 3段階措置+ネット/施設対策が実効性のコア
    条例の具体的内容は以下だ。
    ・Step1(初回):審査会→勧告+公表
    ・Step2(再犯):審査会→禁止命令+公表
    ・Step3(三犯):審査会→公表/公表+刑事告発(罰金50万円)
    ・オンライン:削除要請・モニタリング
    ・公共施設:利用制限
    ※先行例:川崎市条例
    https://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/60-1-10-0-0-0-0-0-0-0.html
    マイノリティがおびえながら生活されることを余儀なくされてはいけない。
    B 名古屋の条例に具体的に組み込むべき
    現在、名古屋市で人権条例が検討されている。
    上記をぜひ組み込むべきだし、最終的には法律としてきちんとやっていくべき。
    3.専門家の視点(北村=“対抗言論の限界”、安田=“ヘイトはただの暴力”)

    ■北村聡子弁護士「ヘイトスピーチは魂の殺人”だ」
    続いて、東京弁護士会の北村聡子弁護士が話しました。
    日本弁護士連合会 国際人権問題委員会 副委員長、元日弁連ヘイトスピーチPT 副座長、元東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例に基づく審査会委員を務められています。
    日弁連では2023年にヘイトスピーチ禁止法を求める意見書を出した(先述)。
    https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2023/230414.html
    ヘイトスピーチを受けた人の被害は魂の殺人”と言える。
    法律で表現の自由を規制しようとしているが、マイノリティにヘイトスピーチを行う以上、「対等ではない関係での対抗言論の法理」は通用しない。
    わずか100年前に関東大震災直後に在日コリアンの人々を大虐殺した。
    独立した専門機関がヘイトスピーチを認定し、公表や禁止命令、削除命令、過料を課すべきだ。
    ■民団愛知県本部・名古屋韓国学校放火事件「何の前触れもなくヘイトクライムの被害が」
    続いて、在日本大韓民国民団愛知県地方本部 副団長の趙鐵男氏が、多数の市民の前ではじめて心情をかたりました。
    途中、こみ上げるものがあり、一部中断しながら述べました。
    私は在日韓国人3世。在日集住地区に生まれ育ったわけではなく、日本名を名乗り日本の公立学校に通っていたため、民族教育を受けてこず、劣等感を持っていた。
    20歳を過ぎたころ、在日韓国人の学生らが集まる学生会に参加し、祖父母が日本にわたってきた歴史を知って、劣等感が払しょくされ、民族名を名乗り出した。
    自分の子どもには劣等感を持ってもらいたくなく、名古屋韓国学校に通わせていた。
    2021年7月24日、何の前触れもなく民団愛知県本部と名古屋韓国学校に放火されるというヘイトクライムの被害を受けた。
    被害にあった建物は新しく、あまり燃え広がらなかったが、古い支部会館に火をつけられたらと想像し、不安な日々を送った。
    防犯カメラに映っていた容疑者はごく普通のサラリーマンのようで、身構えようがない。
    すれ違いざまにいきなり襲われるのではないかと恐怖が続いた。
    子どもにアイデンティティをはぐくんでもらおうと韓国学校に通わせたのに、それが原因で被害にあったら、、、
    その後容疑者は京都府宇治市のウトロ地区に放火し、7棟が全焼した。
    容疑者は逮捕されたが、全く反省していない。むしろ「自分のような日本人はまだ出てくる」と犯行予告までした。
    容疑者は裁判の中で「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』が開催されたから愛知県をターゲットにした」と述べた。
    子どもたちに「日本人のふりをして生きなさい」と言わなければいいのかと苦悩したのを覚えている。
    ■安田浩一氏「ヘイトスピーチは『ただの暴力』だ」
    続いて、ノンフィクションライターの安田浩一氏が「深刻化する在日クルド人ヘイトの現場〜取材を通して見えてきたもの」を話しました。
    ヘイトスピーチは「言葉の暴力」と言われるが、「ただの暴力」だ。
    私たちの社会でヘイトスピーチを食い止めなければならない。
    表現の自由は大事で、私も表現で飯を食っているが、今最も言葉を奪われているのは差別されている当事者だ。
    「ヘイトの自由」だけ述べるのはムカついている。差別と偏見の向こう側には、殺戮と戦争がある。
    東京では、クルド人の業者によって行われている解体作業現場のビニールシートにいたずら書きされたり鋭利な刃物で切られている。
    日本にいるクルド人のほとんどは埼玉県に住んでいる。次は愛知県。
    2025年7月参議院選挙中、いろんな政党の人が「クルド人出ていけ」と主張した。選挙期間中、クルド人の人みんな口をそろえて「怖い」と言っていた。
    埼玉では「パトロール隊」「自警団」と称して差別運動が起こっているが、もともと川崎市で在日コリアン排斥運動をやっていた人間。
    川崎は条例ができたので激しいデモができなくなった。
    学生にクルド人の印象をアンケート調査したら、「怖い」「川口」「治安が悪い」など、ネットで仕入れた知識をそのまま書いてきたが、実際にクルド人と交流した人は1人もいなかった。
    3歳から埼玉県川口市に住んでいたクルド人が、18歳になってトルコに旅行気分でいったん帰国した瞬間に「過激派」だとして逮捕された。
    トルコ語もほとんど話せないが、パスポートを取り上げられてトルコから出ることができない。
    あたかも凶悪な民族だとする連中が多いが、解体業などで一生懸命暮らしている。
    「クルド人の4歳の女の子がスーパーで万引きした」という動画が1000万回くらい再生された。家族は即警察に行き、本人と中学2年の姉が刑事に説明した。
    最終的にスーパーの防犯カメラで、万引きしていないことがはっきりした。
    中学2年の姉は「クルド人が何を言われているか、毎日SNSをチェックしているから、妹の動画を発見できた」と述べた。
    これが彼女の日常だ。差別と偏見を放置することで、必ず殺戮と戦争が目の前に近づいて来る。
    そうしない世の中のためになにができるか。
    ■安田氏「在日クルド人は2023年入管法改正で『発見』された」
    その後、パネルディスカッションが行われました。

    「どうしてこれほどの在日クルド人ヘイトが行われるようになったか」質問がありました。
    安田氏は「在日クルド人は30年前から日本に住んでいるが、この2-3年で急にヘイトが増えた。
    理由ははっきりしている。在日クルド人は2023年入管法改正で『発見』された。報道で、『難民申請したが認められない』事例としてクルド人が取り上げられた。
    今の日本で、権利を主張したり獲得したいと訴えると叩かれる。女性や障害者もそうだ。
    日本に住み続けたい、合法的に在留許可を欲しいと訴えたクルド人がバッシングの対象になった。
    クルド人がちょっとした犯罪を犯すだけで大きなニュースとなった。
    川口市は20年間で外国人住民が4倍になったが、刑法犯認知件数は3分の1に減った。インチキ、ウソに踊らされてネット上で虚像が作られた」と述べました。

    ■安田氏「在日朝鮮系金融機関に火をつけた容疑者は元まじめな会社員」
    2017年在日朝鮮系金融機関の店舗に火をつけられた件を取材された安田氏は
    「裁判の中で、容疑者は『従軍慰安婦の問題を韓国が騒ぎ立てている。韓国日本大使館前に少女像を建てた。それに抗議するため金融機関に火をつけようとした』と述べている。
    当該金融機関は韓国政府となんのつながりもなく、彼の誤りだが、ネット情報に依存して、『朝鮮半島出身者は日本を恨んでいる』と思い込んだ。
    容疑者は30年以上会社に勤めて永年勤続表彰を受けている。定年退職後やることがなくなり、ネットを見るようになり、ガセ情報に踊らされていく。
    憎悪を募らせ、ネット社会から一歩抜け出して犯罪行為に走った。
    実効性のある条例、法整備ができるかが、クリアしていなければならない大きな問題」と述べました。

    ■北村弁護士「東京都の条例は事案公表と拡散防止措置までで氏名公表がないのが限界」
    北村弁護士は、昨年まで6年間ヘイトスピーチ条例の審査会委員を務められていました。
    「東京都の条例は事案公表と拡散防止措置までで、氏名公表がないのが限界だ。実際悪意あるヘイトスピーチをしている人は、サークル活動みたいなノリで街宣し、終わった後ビールを飲みに行くみたいな軽いノリ。楽しそうに差別をしている。
    そういうひとにいくら啓発活動やっても意味がない。罰則しかない。
    また、差別に対してカウンターを行っている人は尊敬する。悪意ある差別者は何も感じなくても、通りすがりの人は何か感じるかもしれない」と述べました。

    ■「マイノリティがマジョリティにヘイトスピーチなんてできない」
    会場から「日本人のヘイトスピーチを容認するのはおかしい」と反論があることに対し、北村弁護士は「仮にマイノリティがマジョリティにヘイトスピーチしても害悪は小さい。
    あと、実際そんな人はいるのか?在日コリアンやクルド人が日本人に対してヘイトデモは怖くできない。本当にリンチを受けるかもしれない」と述べました。
    安田氏は「日本人ヘイトとか日本人差別というのは、言葉の用法や概念としても徹底的に間違っている。社会的な力関係の問題だ。
    南アフリカでは圧倒的多数の黒人に対してレイシズムが発動されていた。」と述べました。

    ■安田氏「反差別も学んでいける」
    安田氏は「25年間、海外にルーツを持つ人の取材を続けてきており、怒り狂っている。人は差別も学ぶが、反差別も学んでいく。
    反差別のために何をすべきか。今日のシンポや条例・法整備、昔だったら見過ごされてきたことを指摘する人が増えてきた。
    パワハラ、セクハラなど、昔許されてきたが今は許されないことがたくさんある。私たちは少しずつ何かを獲得している。
    国が、行政が、そして最も差別を受けていない人間である『日本人の男』が身体を張ってでも社会を守ることが必要。」と述べました。

    ■安田氏「女性参政権、1日8時間労働、週休2日、最低限の人権も『騒いだ人』がいたから獲得できた」
    安田氏は「今も差別と偏見の炎がちらちら燃え続けている。外国人おかしいとみんなで言っていこう。
    少数者が声をあげたり、こぶしを振り上げたことで日本や世界の歴史が変わってきた。
    女性参政権、1日8時間労働、週休2日、最低限の人権も『騒いだ人』がいたから獲得できた」と述べました。

    4.表現の自由との整合(国連見解/誤解の整理)
    ■国連「ヘイトスピーチ対処は言論の自由を制限または禁止を意味しない」
    最後に、愛知県弁護士会人権擁護委員会委員長の古澤仁之弁護士が閉会の挨拶を行いました。

    ヘイトスピーチについて、国連のホームページに2019年当時のグテーレス事務総長の言葉が紹介されている。
    「ヘイトスピーチに対処することは、言論の自由を制限または禁止することを意味するのではありません。それは、ヘイトスピーチがより危険なもの、特に国際法が禁じる差別、敵意、暴力の扇動へとエスカレートしないようにするということを意味します」
    https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/48203/

    ヘイトという問題を我々が生み出した問題だとすれば、議論を封殺するのでなく、極端な排外主義に流されるのでもなく、被害を見て見ぬふりをするのでもなく、言葉を尽くし、言葉を紡いで、条例の制定といった公の場で堂々と議論することで問題を乗り越えていきたい。

    ●シンポジウムまとめ
    ・ヘイトは言論の自由の問題ではなく、被害の現実。
    ・3段階措置+ネット/施設対策が実効性のコア。
    ・名古屋の条例に“実装”できるかが勝負。

    ※当日の録音・録画は禁止されました。また、資料は参加者には配布・ダウンロード可能でした。資料のうちすでにネットで公開されているもののみリンクを貼っています。

    5.あなたにできること
    ? 9/29(月)14:00「名古屋市人権条例検討会」を傍聴する
     https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000185008.html
    ? 記事をシェア+感想を語る
    ? SNS共有(感情訴求)
    「勧告→命令→刑事告発の3段階でヘイトを止める。名古屋の条例づくりに ネット/施設対策も。#名古屋 #人権条例」
    「放火は前触れなく来る。 ヘイトは“言論”じゃない??暴力だ。 名古屋の条例に実効性を。#差別を止めるのは制度」

    --------
    ・2025年8月10日(日) 09:00 神奈川新聞
     差別禁止法を求めて 時代の正体 差別撤廃条例作ろう シンポで呼びかけ
     https://www.kanaloco.jp/news/social/article-1197843.html
    ------- 
    ・名古屋市民オンブズマン 人権条例ページ
     http://www.ombnagoya.gr.jp/tokusyuu/jinken/index.htm

    ・名古屋市民オンブズマンブログ 人権問題
     https://ombuds.exblog.jp/i111/

    25/7/14(月) 【現場レポート】「子ども権利擁護」を起点に──名古屋市「人権条例」第2回検討会を傍聴して

    差別発言をきっかけに動き出した「名古屋市人権条例」づくり。その現場では、今、“子どもの声”が制度を変える力になろうとしています。


    2025年7月14日、名古屋市で「第2回 名古屋市人権に関する条例(仮称)検討会」が開催されました。
    今回のテーマは、「条例骨子案」に関する意見交換。特に注目されたのは、「子どもの人権」や「差別の定義」、そして「相談・救済の仕組み」をめぐる議論です。

    ・配布資料(名古屋市ページ)
     https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000188591.html
    ・名古屋市民オンブズマンによるメモ
     http://www.nagoya.ombudsman.jp/data/250714-2.pdf

    ◆名古屋城市民討論会差別発言をきっかけに人権条例検討へ
    本件は、2023年6月3日に名古屋市が開催したバリアフリー市民討論会における参加者による差別発言ならびにその後の対応の不手際を踏まえ、第三者委員会による検証で「包括的で実行性がある人権条例」制定を提言されて議論が開始されました。
    https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000178461.html

    今、名古屋市が子どもの人権保護で築いた制度が、差別全般に対応する“人権条例”へと発展しようとしています。

    ◆「子どもが声を上げられる社会」の実現に向けて
    冒頭、名古屋市が設置する「子どもの権利擁護委員(なごもっか)」の間宮静香弁護士から報告がありました。

    子どもの権利を守るには、「個別救済」「モニタリング+意見表明、助言、勧告」「広報啓発機能」の三本柱が必要。

    実際に体育館の窓ガラス落下や、不当な出席認定に関するルールといった事案に対し、制度の「発意」などで改善が図られた実績が紹介されました。

    「子どもが『つらい』と声をあげたとき、その声を拾い、制度を動かす仕組みが必要です。」(間宮委員)

    市が条例を定める上でも、「名古屋モデル」としてのなごもっかの経験が活用されるべき、特に条例検討の際に必要なのは以下だ。
     ・独立性の具体的な確保(委員の選任・事務局)
     ・相談モニタリング結果の公表と対応
     ・普及啓発
     ・申立てがなくても勧告、意見提出
     ・協力義務の明記
     ・重なる部分の調整
    との提言がありました。

    参考:2024(令和6)年度なごもっか活動報告書
     https://nagomokka.city.nagoya.jp/news/2747/

    ◆「差別」の定義はどこまで広げるか
    会議では、「差別」をどう定義し、どのように対応するかも議論されました。

    部落差別やアウティング(本人の同意なく性的指向等を暴露)も例示しつつ、条例で包括的に差別を禁止する必要性が語られました。

    視覚障害の当事者からは、「社会のあちこちで“見えない差別”がある」として、点字や音声対応の不備を指摘する声も。

    「“障害者も健常者も生きやすい社会”を語るなら、まず制度がその前提を作らなければならない」

    「不当な差別」を禁止するだけでなく、差別の“解消”に向けた市の責務を明記すべきという意見も出されました。

    ◆ヘイトスピーチ、公の場での差別行為はどうする?
    議論の後半では、インターネットや街頭での差別的言動(ヘイトスピーチ)への対応も話題に。

    特に、選挙期間中に差別的発言を繰り返した候補者が議席を得たことに、委員から危機感が。

    これに対し、「公共施設の使用不許可」や「ネット上の削除要請・声明発出」などを条例に盛り込むべきという提案がなされました。
    しかし、名古屋市の担当者は「基本的にヘイトスピーチは許されないが、選挙は公職選挙法で規制されており、どこまで条例でできるか、難しい」と述べました。

    現時点の草案では「公表」や「利用制限」などが検討されています。
    また、今回の人権条例に「罰則」を設けるかについては賛否が分かれましたが、最低限「公表」による実効性の確保が重要との認識が共有されました。

    ◆相談窓口は「制度の入口」──機能する仕組みを
    次に議論されたのは、相談体制のあり方です。

    単なる「電話相談」だけでなく、「声を上げられない人の代弁」や「調査・公表」などを担う窓口が必要とされました。

    相談員に求められるのは、当事者の声に寄り添い、制度と社会をつなぐ“専門性”。

    「相談窓口は、“差別を解消する宝の山”。専門職としての育成と処遇改善が不可欠です」(間宮委員)

    「なごもっか」では、15名の調査相談員が専門的に対応しており、これは全国でも突出した体制とのこと。

    今回の議論で何より浮かび上がったのは、「声を拾い、制度を動かす仕組み」がいかに重要かということでした。

    ◆まとめ──予防・救済・啓発の3本柱をどう組み込むか
    今回の検討会では、「差別をしない」だけでなく、

    差別を**“見える化”し、救済につなげる**

    差別を未然に防ぐ教育・啓発を重視する

    声をあげられない人に代弁・調査・提言を行う機関を制度化する

    といった、包括的な条例設計の方向性が明確にされました。

    ◆子どもの権利擁護機関の運営は年間約1億5000万円
    検討会終了後、子どもの権利擁護機関の運営費用を調べてみたところ、令和7年度予算の概要(草案)では1億4802万3000円でした。
    https://www.city.nagoya.jp/zaisei/cmsfiles/contents/0000183/183639/kisyasouan.pdf

    今回の委員の分野をピックアップするだけで以下あります。
     女性・子ども・老人・身体障害者・精神障害者・部落・多文化・ホームレス・LGBTQ

    人権をきちんと守るために、名古屋市としてどのような体制をとるか、どれぐらいの費用をかけるのか。名古屋市の覚悟が試されます。

    なお、検討会終了後、委員が「なごもっかの制度は全然知らなかった。
    大変良い制度で、別分野の差別解消制度でも取り入れいれたかった」と雑談をしていたのが印象的でした。
    どうしても他分野の制度までは追いかけられていないようです。
    これを機に、名古屋市の人権状況のレベルアップを望みます。

    次回第3回検討会は2025年9月29日(月)午後2時からの予定です。
    ぜひご参加ください。

    また、2025年8月9日(土)午後1時半から、愛知県弁護士会がシンポジウム「つくろう!人種差別撤廃条例 〜愛知におけるヘイトスピーチ/ヘイトクライムの実情を踏まえて〜」を行います。
    そちらもご参加ください。
     https://www.aiben.jp/about/katsudou/jinken/news/2025/07/202589.html
     

    25/4/14(月) 第1回名古屋市人権に関する条例(仮称)検討会 座長「作る以上は実行性のあるものであるべき」

    25/4/14に名古屋市は第1回名古屋市人権に関する条例(仮称)検討会を開催しました。
    座長に選任された小林直三・大阪経済大学教授は、検討会終了後「人権条例を作る以上は実行性のあるものであるべき」と述べました。

    ・名古屋市スポーツ市民局人権施策推進部 人権施策推進課人権企画担当
     第1回名古屋市人権に関する条例(仮称)検討会(令和7年4月14日開催)
     https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000185607.html
    ・名古屋市民オンブズマンによるメモ
     http://www.nagoya.ombudsman.jp/castle/250414-0.pdf


    本件は、23/6/3に名古屋市が開催したバリアフリー市民討論会における参加者による差別発言ならびにその後の対応の不手際を踏まえ、第三者委員会による検証で「包括的で実行性がある人権条例」制定を提言されました。
    ・24/9/18 「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における差別事案に係る検証について(最終報告)
     https://www.city.nagoya.jp/sportsshimin/page/0000178461.html
     
    今後、2025年7月〜12月に検討会を3回開き、2026年2〜3月に条例骨子を検討し、2026年4月以降、パブリックコメントを踏まえて条例案を決定するスケジュールが示されました。

    委員からは「憲法だけで無く、各種条約を踏まえた条例にしてほしい」という意見が相次ぎました。

    宮前髟カ弁護士は「2025年2月に愛知県弁護士会が人種差別撤廃条例を求める意見書を各自治体に出したので参考にしてほしい」と述べました。
    ・2025年(令和7年)2月18日 愛知県弁護士会 会長 伊藤倫文
     愛知県内の地方公共団体において人種差別撤廃条例の制定を求める意見書
     https://www.aiben.jp/opinion-statement/news/2025/03/post-122.html

    間宮静香弁護士(名古屋市子どもの権利擁護委員)は「名古屋市子どもの権利相談室『なごもっか』は全国的に見ても先進的だ。
    上記の仕組みを人権全般に広げてはどうかと思う」と述べました。
    ・名古屋市子どもの権利相談室「なごもっか」
     https://www.city.nagoya.jp/kodomoseishonen/page/0000154568.html

    土井佳彦・特定非営利活動法人多文化共生リソースセンター東海 代表理事は「条例では言及できないが、そもそも国の法律や憲法がおいついていない。 国に提言しメッセージを発信してはどうか」と提案しました。
     
    橋井正喜・名古屋市身体障害者福祉連合会 会長は「障害当事者は私くらい。やっかいなのは大人。どんな条例ができようが、障害者はどこかで我慢するしかないのが現状」と述べました。

    次回は25/7/14(月)とのこと。

    --------
    広沢市長は25/4/14(月)午前に行われた記者会見で、人権条例の制定について記者から問われ「人権条例制定に向けた動きとともに、名古屋城も再び動き出すというふうに考えています。」と述べました。
    https://www.city.nagoya.jp/mayor/page/0000185570.html

    ------
    以下感想

    包括的な人権条例は各地で制定されつつあります。
    ・一般財団法人 地方自治研究機構
     人権の尊重と差別の解消に関する条例
     http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/114_jinken.htm

    一方、相模原市では人権施策審議会の「答申」が骨抜きになって24/3/19に市議会で可決・成立しました。
    https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/1026766/1013001/1030258.html

    ・2023年12月22日 19時00分 弁護士ドットコムニュース
     津久井やまゆり園事件が起きた相模原市、骨抜き「人権条例案」に批判の声
     https://www.bengo4.com/c_1017/n_16950/

    25/4/1施行の名古屋市障害者差別解消推進条例改正は、パブコメ終了後、「勧告を行うことを原則としながら、勧告を行わない場合にはその理由を公表する」と骨抜きになりました。
    https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000114033.html
    https://ombuds.exblog.jp/30648511/

    また、国際人権基準の専門家の藤田早苗・英エセックス大学人権センターフェローは「国連人権高等弁務官事務所は『生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力・可能性を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを要求する権利が人権。人権は誰にでもある』と述べている」としています。
    https://hyogen-tsutaeru.jimdofree.com/
    ・国連広報センター (UNIC Tokyo)
     人権とは? (OHCHR: 国連人権高等弁務官事務所)
     https://www.youtube.com/watch?v=TXJNVM-nHqo

    今後、検討会の議論に注目するとともに、「骨抜き」にならないよう注視していきたいと思います。

    -------
    ・名古屋市民オンブズマン 名古屋城問題ページ
     http://www.ombnagoya.gr.jp/tokusyuu/goten/index.htm 
    ・名古屋市民オンブズマン 人権条例ページ
     http://www.ombnagoya.gr.jp/tokusyuu/jinken/index.htm

    ・名古屋市民オンブズマンブログ 名古屋城問題
     https://ombuds.exblog.jp/i33/
    ・名古屋市民オンブズマンブログ 人権問題
     https://ombuds.exblog.jp/i111/

    トップへ戻る